夏の花、夏の女

夏の花といえば、朝顔です。 

6月頃から咲き始めて、ほぼ白い色から、鮮やかな紫、赤紫、更には花を縁取る、あるいは放射状の筋が走るなど、様々な模様と相まって、いかにも日本の夏の彩りとして、他に変わるべきものがありません。 

 

朝はキレイに咲いて、やがてしぼんでしまうのも、残念な気がしますが、日本人の心に合っているように思います。 もっとも、朝顔は俳句では秋の季語だそうですが。 

 

さて、夏が似合う(?)女性というと、例えば七夕の主役、織姫を思い出します。 実際に存在した女性では 「朝顔につるべとられて貰い水」 と詠んだ江戸時代の俳人、加賀の千代女(ちよじょ)でしょうか。  

 

加賀の国、松任(現在の石川県白河市の生まれ、加賀の千代女はまだ、少女の時に加賀の国を通りかかった芭蕉十哲の一人、各務支考(かがみしこう)に教えを乞います。 ホトトギスという題を与えられ、一晩中次々に句を詠んだ挙句、夜明けも近くなり、支考に「それだ!」と認められた句が 「ホトトギス ホトトギスとて 明けにけり」 です。 やがて千代女は結婚して、子供が生まれますが、間もなく夫が病死、子供も亡くなり、独り身になります。 

「起きてみつ 寝てみつ 蚊帳の広さかな」 (※注) 

かつては夫と子供と川の字で寝ていた蚊帳の中が、一人寝の今は広く、そして寂しく感じる思いが、見事に伝わってきます。  

 

つるべも蚊帳も、現在の日本ではほとんど見ることもなくなりました。 しかし、つるべが「水道」あるいは「水栓」、蚊帳が「エアコン」では、様にならず、夏の情景も思い浮ぶことなく、情緒を感じることもできません。

 

この句に述べられている心情は現在でも変わることはありません。 日本人の心に残る、どこか懐かしい句だと感じています。  

 

※注 この句が千代女の作というのは俗説で、浮橋という遊女が詠んだ句と言われていますが、千代女の心情と夏の情景にぴったりだと思い、敢えてそのままとしました。 

 

編集後記 

向日葵の迷路なかなか抜け出せず     加藤弘一 

ヒマワリの背の高さは迷路にぴったりな感じです。